認知症の父の在宅介護記録

アルツハイマー型認知症(要介護5)を患う父の在宅介護の記録

医師の鑑

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これまでプライベートでも、仕事でも様々な医療機関で、数多くの医師と接してきたが、医師も十人十色だと実感している。
 
今回、父の担当をしてくださった医師・A先生は今まで巡り合った医師の中でも、群を抜く素晴らしい方で、まさに医師の鑑と言える方であった。医師たるもの高い専門性や治療技術を有していることは必須条件だが、そこから先の違いは何かを考えると、一言でいうと「人となり」ではないかと思う。言葉にするととても陳腐だが、患者や家族への思いやりとか寄り添う気持ちがあるかどうか、そういったものを患者や家族が感じられるかどうか。こうしたことが良い医師とそうではない医師の差となるのではないかと個人的に感じている(あくまでも私にとっての良い医師の定義である)。そして私にとっては、この「人となり」が、医師との信頼関係を築くことができるかどうかの重要なポイントになる。それでは一体何をもって「人となり」を判断するのかというと、患者や家族と話をする際の態度・表情・話し方などからみえる「人がら」なのだと思う。
 
今回父の件を通して実感したことだが、同じ「口から食べられないということ=もう寿命である」という事実一つとっても、施設職員の心無い態度で言われた時、私たちは不信感と憤りを感じたが、A先生から言われた時には、きちんと納得することができた。これはA先生が、私たちの気持ちに配慮しつつ慎重に言葉を選んでくださっていたこと、素人にも分かるように丁寧な説明をしてくださっていたことが大きい。
 
A先生もはっきり仰っていたが、父の状況で自宅療養という選択は普通はしないし、させないようだ。だけれども私たちがこの無謀な挑戦をしようとしていたため、父の病状と同じくらい、私たちのことも心配してくださっていたようだ。父が長生きすることは喜ばしい反面、家族の負担が増大し私たちが潰れてしまうのではないかと懸念されていた。医師の責務は退院させるところまでだろうに、その先のことまで私たちと同じ目線で頭を悩ませてくださっていたA先生。もう頭があがりません。
 
ということで、今日はA先生の「さすがだなあ」と思わされたエピソードを紹介して、医師たるものこうあって欲しいなあという私の勝手な願望をお伝えしようと思う。
 
・録音にも嫌な顔一つしない
私には遠方に住む姉(長女)がいるのだが、医師から聞いた話しをすべて正しく伝えることは難しいので、大事な話の時はいつも録音をして、録音データを姉とも共有している。もちろん医師には事前に意図を説明し許可を得るが、人によってはあまり快く思わない人もいる。だけれどもA先生は、「全く問題ないですよー」といつも笑顔で快諾してくれていた。
 
・いつも気さくに声をかけてくださる
私と姉(次女)は基本的に、毎日父のお見舞いに病院へ通っていた。A先生もそのことはご存知で、時折病室に様子を見にきてくださり、「毎日おつかれさまです」と声をかけてくださった。いやいやそれは私たちのセリフですよ先生と思いつつ。。。またこちらが尋ねなくても、父の病状や治療経過と今後の見通し等についていつも丁寧に説明をしてくれた。
 
・経済的負担への配慮
経管栄養の栄養剤も色々な種類がある。食品扱いのものもあれば、医薬品扱いのものもある。食品の場合は全額負担となるが、医薬品の場合は保険がきくため、父の場合は1割負担で購入可能だ。A先生は退院後の経済的な負担を考慮し、途中から医薬品扱いの栄養剤に変更してくれたようだ。ありがたい。
 
・要介護度の引き上げの提案
退院前のミーティング時に先生が要介護度引き上げの提案をしてくださった。入院当初、父は要介護4であったが、もう状態としては要介護5に相当するので、要介護5の申請をしましょうと。それ以前に、私たちも同様のことをケアマネさんに相談したことがあったが、手続きの煩雑さゆえか、やんわり断られたことがあった。ところが、A先生が提案してくださったことが後押しとなり、ケアマネさんもすぐに申請してくださった。結果、すぐに要介護5の認定を受けることができた。要介護度があがることで、介護保険を利用できる金額も増えるため、これはとても有難い。医師にとっては退院後のことは知ったこっちゃないことだと思うのだが、そこまで気づかっていただけるとは本当にこちらが恐縮してしまう。
 
・分厚いサマリー
父の退院時、往診の医師への引き継ぎとして作成してくださったサマリーが、封筒がとじないくらい(無理やりのり付けしていただ)パンパンに分厚いもので、ビックリした。きっと先生のことだから、とても丁寧に細かく記載してくれていたのだと思われる。(私たちは中身は見ていないので想像でしかないが)
 
・父のお見送り
退院時、A先生はエントランスまでお見送りにきてくださったが、なんと車が見えなくなるまで見送ってくださっていたそうだ。たまたま時間があっただけで、いつもそんなことをしているわけではないかもしれない。それでも、父のことをそんな風に見送ってくださった、その温かさにじーんときた。
 
とまあ、A先生はこんな方です。多少なりともA先生の姿を想像し、共感していただけたら、嬉しいです。そして、日々忙しい医師にA先生ほどのことを求める気はありませんが、でも根本の部分の「思いやり」とか「寄り添う姿勢」は持っていただきたいなあと思うのです。